訂正印の押し方



1.問題提起

契約書とは直接関係する問題ではありませんが、訂正印の押し方について考えてみたいと思います。
契約書に限らず、捺印をする必要のあるような重要な文書を作成する際に、署名・捺印をする段になって誤字・脱字が見つかったり、急遽契約内容を一部変更する必要が生じる場合があります。
本来であれば、かかる場合にはその書面を作り直すのが最良の方法といえますが、例えば、契約締結に際して相互に条文を読み合わせしている段にそれらが判明して、いまさら作り直すことができないとか、既に契約書等に双方が捺印を完了していていまさら契約書を作り直すことは困難という場合もあります。そのような場合には、やむなく訂正印を押したうえで契約書などの文言を修正せざるを得ません。
ところが、この訂正印の押し方について、必ずしも明確に認識がなされていないと思われる場合に多々出くわします。
ただ、これから述べることも、必ずしもそれが正解と言い切れるかというと、自分でも多少自信のないところがありします。もし、間違いとか誤解がある場合には、御指摘していただければと思います。


2.訂正印の必要性

そもそも、契約書等の文言を訂正する場合に、なぜ、訂正印が必要なのでしょうか。
契約書は、当事者双方の最終的な意思を書面に記載することによって、契約の内容を確定させ、後日の証拠として残すことをその本来の目的とします。
ところで、万一、その契約書の内容を当事者の一方が勝手に変更・修正(いわば「改ざん」ですが)したとしたらどうなるでしょうか。契約書の内容と当事者が契約締結時に合意した内容とが一致しないことになってしまい、契約書を作成した意味がなくなってしまいます。
従って、一度、締結された契約書は、本来、事後的に変更・修正することはできないはずです。
ただ、契約書を作成した後などで、誤字・脱字が判明した場合や、内容的もしくは表現が不適切であることが判明した場合など、どうしても契約書を修正しなければならない場合があることも事実です。
そのような場合には、当事者双方でその修正内容を確認したうえで、双方合意のもとに契約書を修正する必要があります。
訂正印とは、このように契約書を修正する際に、それが当事者双方の合意のもとで、権限を有する者によってその修正がなされたものであることを契約書上表示することによって、契約書が当事者の一方によって勝手に改ざんされたものではないことを確認するとともに、後日、その修正をめぐってトラブルが生じることのないように明確にするためのものです。


3.訂正印の押し方

訂正印が、以上のように、当事者双方の合意のもとで契約書を修正したものであることを明確にするものであるということから、訂正印の押し方(契約書の修正の仕方)については、以下のようにする必要が生じます。
@訂正印は当事者双方が押印しなければならない。
A訂正箇所および何をどのように修正したのかが明確に分かるようにしなければならない。

以下、具体的に訂正印の押し方を見てみます。

まず、修正する箇所を確定した上で、修正すべき文言に二重線を引きます。この際、注意しなければならないのは、修正後であっても修正された文字が判読できるようにしておかなければならないということです。
その上で、横書きの場合にはその上または下に、縦書きの場合にはその右または左に修正した文言を記載します。

次に、その修正した行の欄外に、修正により削除する文字数と修正によって追加する文字数を、「○字削除○字追加」という形で記載します。

そして、最後に当事者全員が訂正印を押すのですが、訂正印の押す場所については、欄外の「○字削除○字追加」と記載したところに押す方法と、二重線で削除した箇所に押す方法とがあります。ただ、個人的には二重線で削除した箇所に押印する方法をお勧めします。確かに、これですと文章中に押印されることとなり、文章が多少読みにくくなることは否定できませんが、修正箇所を特定し、何をどのように修正したのかを当事者双方が再確認するという意味でも、直接修正箇所に押印する方が確実と思うからです。
なお、訂正印は、契約書等の当事者としての捺印に使用した印と同一の印によって行う必要があります。


4.捨印について

事後的に契約書等を修正するに際して、いちいち訂正印を押すことを省略するために、契約書への捺印に際して、あらかじめ捨印を押印しておくという方法が往々にして用いられています。
これは、あらかじめ契約書の欄外に捺印したのと同じ印を押印しておき、事後的に契約書の修正の必要が生じたときには、この捨印を訂正印として流用するとするものです(その結果、訂正印を欄外に押したのと同じ形になります。)。
しかし、これは非常に危険を伴うことを認識する必要があります。つまり、捨印を押しておくということは、いわば、相手方に対して契約書を修正することについての全面的な承諾を与えたのと同じ事となるということです。つまり、相手方において、その捨印を訂正印として利用して、勝手に契約書を修正してしまう危険を自ら作り出していることになるのです。
従って、余程相手方を全面的に信用できる場合でもない限り、契約書にあらかじめ捨印を押すということは行うべきではありません。
どうしても、捨印を押さなければならない場合には、せめてもの抵抗として、「捨印」と明記した上で捨印を押印するという方法が考えられます。こうすることによって、後日勝手に修正された場合でも、それは捨印を利用されたものであることが明確になるため、重要な修正についてはそれについて承諾していなかったとしてその真実性を事後的に争う余地が生じると考えられるからです。但し、これについても必ずしもその修正を否定できるとは限らないため、最後のかつ些細な抵抗として認識すべきです。まず、捨印は押さないということを原則とすべきでしょう。

以上