「甲」、「乙」って何?



1.問題提起

契約書を見ると、契約書の条項の中で、当事者を「甲」とか「乙」とかと表現している事があります。契約書を見慣れないと、条文を読んでいる途中で、どちらが「甲」でどちらが「乙」だったか分からなくなってしまい、頻繁に契約書の最初に戻って、確認しながら読まなければならないなどといった事もあります。
そもそも、契約書の条文の中で、当事者を「甲」「乙」などと表現するのはなぜなのか、また、当事者がもっと多いときはどうすればいいのかといったことについて考えて見ましょう。


2.「甲」「乙」といった符号を使う意味

契約書とは、当事者間において、一方に権利を付与し、他方に義務を生じさせるものです。従って、誰が誰に対してどのような権利を有しているのか、誰が誰にどのような義務を負っているのかということを明確に表示しなければなりません。その結果、各条文において権利を有している当事者、義務を負担している当事者を表示することが必要になります。

そこで、本来であれば各条文の中で当事者をそのまま表示することが考えられます。ただ、契約書の中で何度も「○○○○株式会社」とか、個人名を何度も記載するのは手間ですし、また、そのような契約書は読んでいてなんとなくくどく感じられるものです。
そこで、契約書の冒頭でそれぞれの当事者を甲、乙といった符号で言い換えることを明示して、以下の条文では当事者をあらわすのにその符号を使うことが一般に行われているわけです。


3.「A]、「B」じゃいけないの

「甲」「乙」といった言い換えがあくまでも当事者を表示する符号である以上、それは、必ずしも「甲」「乙」という形でなければならないわけではありません。「A」「B」としたっていいですし、「イ」「ロ」としたって構いません。ただ、日本語の契約書の場合、慣行的に「甲」「乙」といった形が使われるのが一般的だったというだけです。


4.当事者がもっと多いときは

契約当事者が二人だけの場合は、一方を「甲」、他方を「乙」とすれば足りますが、当事者が3人以上の場合はどうすればいいでしょうか。
当事者が3人以上となる場合として、各当事者がそれぞれ独立の立場で契約に参加し、それぞれが他社に対して権利義務を有するという、いわゆる複雑な契約形態の場合と、当事者の一方の側が複数いる場合とがあります。

(1)複雑形態の場合の例
石上株式会社が売主となり、佐藤工業が買主となる売買契約を締結し、売主は第三者である高橋工務店に商品を納入するといった場合を考えて見ましょう。

このような場合には、それぞれ石上株式会社を「甲」、佐藤工業を「乙」、高橋工務店を「丙」といった形で、符号を単純に増やす形が考えられます。
ちなみに、もっと当事者が増えた場合には、甲、乙、丙の次は「丁(テイ)」、「戊(ボ)」、「己(コ)」「庚(キョウ)」「辛(シン)」「壬(ジン)」「癸(キ)」…となります。現実の契約でここまで当事者が増えるということは通常考えがたいですが、一応の予備知識として。

(2)当事者の一方が多数の場合
石上株式会社と佐藤工業とが共有している土地を、高橋工務店が購入するような場合がこれにあたります。この場合には、売主として石上株式会社と高橋工務店がいるわけです。
この場合、複雑形態の場合と同様に、石上株式会社を「甲」、佐藤工業を「乙」、高橋工務店を「丙」とすることも可能です。しかし、この場合、石上株式会社と佐藤工業とは同じ売主の立場に立ち、その義務はほぼ同じ内容となることが考えられます。そこで、このような場合には、石上株式会社を「甲1」、佐藤工業を「甲2」とし、高橋工務店を「乙」とすることが考えられます。
このように「甲」のなかに枝番を設けることのメリットは、これらの甲1、甲2をまとめて「甲」としてくくることが容易だということがあります。つまり、上記例のような場合、甲1も甲2も売主という共通の立場に立つため、その権利・義務の内容の大多数は共通です。そこで、これらをまとめて「甲」とすることで、条項を簡略化できるのです。

以上