会社の署名(記名・捺印)



1.会社の法律行為は誰が行うか

個人(自然人)が契約をするときは、その本人が住所・氏名を記載して、これに押印する方法によります。
ところで、会社などの法人も、法律によって自然人と同様に権利能力が認められ、それ自体が権利義務の主体となることができます。従って、会社が署名(記名・捺印)する場合も、その会社名によって契約書に捺印することができるはずです。
しかし、会社はそれ自体はあくまでも観念的な存在であり、会社という団体自身が自ら契約締結などの法律行為を行うことはできません。つまり、会社などの法人にあっては、あくまでもその代表者が会社のために法律行為を行わざるを得ないのです。つまり、会社の代表者である個人(自然人)が会社のために行うことを明示して行った法律行為の効果が会社に直接帰属することになります。その意味で、会社の行為というのは、代表者が会社の代理人として行為する場合と同様に考えることができるでしょう。


2.会社の署名(記名・捺印)の方法

契約書への署名・捺印の項でも会社の署名(記名・捺印)の方法については少し触れましたが、ここでは、もう少し詳しく会社が署名(記名・捺印)する場合の注意点について述べてみたいと思います。

(1)会社の記名
上述のように、会社が契約をする場合には、その代表者が会社の代理人とも言うべき立場で契約締結行為を実際に行うことになります。そこで、契約書上も誰が会社の代表者(代理人)として契約締結行為を行ったのかを明確にしておく必要があります。
具体的には、会社の住所・商号を明記した上で、代表者名も記載する必要があるということです。
例えば、東京都品川区西五反田5−2−3−1107を本店とする石上株式会社(代表者:石上亮)という会社が契約を締結する場合の記名の方法は、以下のようになります。

           東京都品川区西五反田5−2−3−1107
           石上株式会社
              代表取締役 石上亮          代表者印

この場合、3行目の「代表取締役 石上亮」という代表者の記載については、時としてなされていない例を見かけますが、この記載がないと、誰がその会社の代表者として契約締結行為を行ったかが明確にならないため、後日、本当に権限を有する者が契約締結を行ったかについてトラブルとなる危険が生じるため、代表者の記載は必ず行うよう注意が必要です(特に、相手方の記名に代表者名がかけていた場合には、後日、相手方において契約の効力を争ってくる危険があると考えるべきであり、必ず代表者名まで記載してもらうようにする必要があります)。

(2)会社の捺印
会社の住所・商号・代表者名の後ろに、「代表者印」を押印してもらいます。これは必ずしも登記印である必要はありません。ただ、重要な契約や、金額が大きい場合などには、契約締結意思の確認および手続を慎重に行うという観点から、敢えて登記印の押印を求めることが適切という場合もあります。なお、登記印による押印を求める場合には、印鑑証明書も同時に発行してもらうのが原則です。登記印による押印は、それが登記印であることを証明する印鑑証明書という裏づけがあってはじめてその実効性を有するからです。

また、会社としての代表者印と同時に、時として商号・代表者名にかかるように角印(いわゆる「社版」)が押されてくる場合があります。これは会社としての意思確認という意味を持つと考えられていますが、それが押されているか否かによって契約書への捺印の効力が変わるものではありません。

ところで、会社によっては、所定の契約書にあらかじめ住所・商号・代表者名とともに、代表者印等の印影がはじめから印刷されているものがあります。しかし、これは正式な意味での「捺印」とは認めらないので注意が必要です。これは法律的にあくまでも「記名」の一部としてしか効力が認められないのです。

(3)会社の署名
一般的には会社の場合、その住所・商号等は、ゴム印等によって表示されるのが一般と思われますが、代表者がそれらを手書きで書いてももちろんかまいません。


3.会社の住所および代表者

ここまで、会社が記名・捺印する場合の形式についてのべてきましたが、そこでは、会社の住所および代表者ということが何度か出てきました。そこで、ここでは会社の住所とは具体的にどこをいうのか、また、会社の代表者とは誰なのかという点について確認します。

(1)会社の住所
会社の住所は基本的には会社の本店所在地にあるとされています。本店所在地がどこであるかはその会社の商業登記簿謄本に記載されています。
記名の際に住所の記載を要する理由は、「契約書への署名と捺印」の項でも書きましたとおり、その会社を特定するためです。
ただ、時として、商業登記簿謄本上の本店所在地と、実際に本店機能を有する事務所の所在地とが異なっている場合があります。このような場合、できれば契約書への捺印に際しての住所としては商業登記簿謄本記載の住所を記載してもらうようお願いしてみるべきです。しかし、どうしても実際の本店機能の所在地の住所としたいという先方の強い要請がある場合には、会社のパンフレット等によりその裏づけを確認したうえで、それに応じることもやむをえないでしょう。この際には、できれば先方から登記簿謄本上の住所とは違うが、取引に関してはその住所を会社住所として使う旨の一筆を差し入れてもらうことも考えていいでしょう。

また、支店がある会社の場合、その支店の住所が記載される場合もあります。支店の所在地も、原則として登記簿謄本に記載されていますので、それによって確認できます。

(2)代表者
会社の代表者は会社の種類によってその呼び名が異なっています。
株式会社の場合には代表取締役
有限会社の場合には取締役(ただし、有限会社において取締役が複数いる場合において、その中の一部の取締役のみが代表権を有するとされている場合には、代表取締役という肩書きが用いられる場合もあります)
合名会社・合資会社の場合には代表社員という言い方が一般的と思われます。

ところで、よく、「社長」という呼称が用いられていますが、契約書への記名等における代表者の表示において「社長 ○○○○」という表示の仕方は適切ではありません。確かに一般的には「社長=代表者」という場合が多いと思われますが、「社長」という呼称はあくまでも会社内部における呼び名であり、代表権の有無とは直接連動しないからです。(現に代表権を有しない社長というのもいます。)

あと、会社ではありませんが、民法上の法人などにおいては、代表者は理事となります。

代表者が誰であるかについても、商業登記簿謄本により確認することができます。
なお、代表者が複数いる場合でも、原則として各代表者がそれぞれ代表権を有します。ただ、例外的に共同代表の定めがある場合には、代表権の行使は共同代表者が共同で行う必要があるため、契約書への捺印も共同代表者全員が行う必要が生じます。
なお、実際の契約締結行為については、必ずしも代表取締役などの代表者の捺印を得ることができず、例えば営業部長等が捺印するという場合もあるでしょう。その場合には、その者が契約締結の権限を有しているのかを確認する必要が生じます。
それらの者が「支配人」として登記されていれば、その者も営業に関する一切の権限を有するため(商法第38条)、通常権限を有するものと考えることができるでしょう。
また、「支配人」として登記されていない場合には、個別に契約締結についての権限が授与されているかを確認する必要が生じることになります。この場合、できれば代表者名による委任状をもらうことができればベストでしょう。

以上