2000年1月17日。下の文章は、とりあえず完成したものとして貼りましたが、 説明が足りないと思われるところやはっきりしないところがあれば訂正します。 数行下の私の名前の場所は、電子メール・リンクになっています。意見や質問 がある方は是非メールをください。



日本における農業とエネルギー、 2000−2050年

(Tony Boys)

日本において、今日ほどエネルギーが安価で豊富な時代は、将来二度と来ない だろう。いまや、エネルギー大量消費の時代は終わろうとしている。今から20 年ないし30年後には、食糧の生産、加工、輸送などのために、あるいは化学肥 料や農薬などを生産するために、現在のような安価で豊富なエネルギー資源に 頼ることはできなくなると考えられている。日本人はそれまでに農業政策と食 生活を考え直す必要がある。今後30年ないし50年間で(2030年-2050年の期間) 日本はいかにして国民を十分養うだけの経済システムに移行することができる かを考察するのが、私の研究課題だ。





1. 2000年の世界状況と日本

日本が現在置かれている状況とその中期的展望は、世界における人口、食糧 とエネルギーの状況を背景に、まず考えなければならない。


1.1 人口

世界人口は現在約60億人で、国連による1998年の 人口推計と見通しでは、2020 年には75億人、2050年には89億人になるという。(www.popin.org/pop1998/)

国連人口推計データ抜粋 (中位見通し、単位:1000人)
 

1998年

2050年

   

1998年

2050年

中華人民共和国

1,255,698

1,477,730

ブラジル

165,851

244,230

インド

982,223

1,528,853

パキスタン

148,166

345,484

アメリカ合衆国

274,028

349,318

ロシア連盟

147,434

121,256

インドネシア

206,338

311,857

日本

126,281

104,921

国によっては人口が増加し(急増が続く国もある)、先進国の多くは人口が 減少することがよく知られている。日本の場合は、2007年に人口が1億278 0万人程度に達し、それ以降減り始める見通しとなっている。アメリカ合衆国 の人口は21世紀半ばくらいまではまだ増加すると思われる。


1.2 栄養不足

国連の食糧・農業機関(FAO)が1999年11 月に発表した食糧保障に関する報告 書によると、現在世界には栄養不足状態の人々が8億人いるが、地球上の穀物は、 人間一人当たりに1日3500calを食糧として与えるだけの収穫がある。穀物と豆 類と木の実などで1135g、それに肉と牛乳と卵などで450g、それらを合わせれば、 人間一人当たりに一日2kg以上の食糧を供給することが可能だ。[1] 量的に見れ ば世界人口を養うことはできるが、それを平等に分配するシステムがないだけ の問題だ。現在飼料として動物に与えている穀物生産量の38%(アメリカでは 70%)を人間に回すという手段から始めてもいいのだが、近い将来そのような政 策が実施されるという見通しはない。


1.3 農業資源の劣化

世界の農業資源は現在複数の問題に直面している:土壌浸食と養分の減少、 地球温暖化などの環境問題、そして水資源の劣化。世界の約14億3千万ha*の 農地で、1ha当たり年間平均30ないし40トンの土壌が失われている。欧米では年 間約17トン程度。世界では、毎年約1200万haの農地が破壊され、または放棄され、 道路建設や都市化によってさらに1000万ないし3500万haが失われている。農地 の減少を補うために、さらなる農地拡大を引き起こし、それが森林伐採の大き な原因の一つとなっている。[2] 土壌破壊の逆説的な原因の一つは、現在人間 が土壌中の養分と(土地と労働の)生産性を化石資源(化学肥料、農薬、農機) によって維持しようとしていることだ。(*1ha, ヘクタール = 10,000m2)

地球温暖化、オゾン層破壊、酸性雨(たとえば、21世紀後半に現在の経済活動 のレベルを石炭で維持しようとした場合)などの環境問題は農業にどのような 影響を与えるのだろうか。それはよくわかってはいないのだが、少なくとも言 えることは、食糧の増産につながることはまずないだろうから、そういうつも りで未来を見つめなければならないだろう。

アメリカ合衆国、中華人民共和国、インド、北アフリカや中東地域では「水赤字 」状態になっており、地下水が少なくとも年間合計1600億m3ずつ減っている。 (たとえば、北米最大のオガララ帯水層はかつて3兆7000億 m3の水量を有した が、それは現在年間約120億m3ずつ減少しているという[3])灌漑によって潤さ れている農地は世界の農地の17%だが、その農地から世界の穀物の約40%が生産 されている。

これらの傾向からわかることは、すべての国がその人口を養う能力、また穀物 輸出諸国が穀物を輸出しつづける能力が少しずつ蝕まれているということだ。 この状況は、将来の化石資源の不足状態によってさらに深刻化する可能性が高 い。


1.4 世界のエネルギー供給

石油その他の化石資源の枯渇は今すぐ起こるわけではないが、これから数年以 内に石油資源を半分採掘した時点に達するという。そこを過ぎると、石油の年 間合計生産高は次第に減少し、全世界が石油その他のエネルギーの供給の逼迫 状況になると予想できる。世界の石油生産のピークは2005年前後に起こると思 われている。同様に、天然ガスの生産ピークは2010−2020年に起こるという。 逼迫状況下では、価格が上昇し、供給が不安定になる可能性が高まる。いずれ にしても、現在の消費の仕方では、石油と天然ガスが実質的に枯渇するまでに 後60年程度しかないという見通しだ。





2. 日本の食糧とエネルギーの自給率

日本は、食糧とエネルギーの供給において、わずか数ヶ国に大きく依存してい る。食糧については約60%を外国に依存している。日本がどの国にどの程度依 存しているのかは次の表から読み取れる。

日本の穀物と牛肉の国別輸入割合、1997年 (単位:千トン、%)
    輸入数量 割合       輸入数量 割合
小麦 米国

3433

54.40

大豆 米国

3891

76.90

カナダ

1600

25.30

ブラジル

559

11.10

オーストラリア

1282

20.30

その他

607

12.00

6315

100.00

5057

100.00

トウモロコシ 米国

15266

94.80

牛肉 米国

307

47.30

その他

831

5.20

オーストラリア

306

47.10

16097

100.00

649

100.00

出所: 農林統計協会 農業白書付属統計表(平成10年度) p.120

エネルギー供給においては、日本は80%程度を輸入に依存している。(原発が作 り出す電気は国内生産として扱われているが、その燃料となるウランの輸入を 計算に入れると輸入依存度は95%程度になるだろう)日本は石油の80%以上を中 東地域に依存し、とりわけ輸入全体の25%以上がアラブ首長国連邦、20%以上が サウジアラビアからである。

化石資源、世界人口、食糧生産の傾向の見通しから考えれば、日本は中期的な 展望を慎重に見極める必要があると言える。


2.1 日本の農業:2000年

日本が直面している問題は次の通りである:

日本の人口は約1億2700万人で、一人当たりの農地面積は約0.039ha。その世界 平均は0.238ha、アメリカ合衆国の場合は0.593haである。農林水産省の推計に よると、日本が毎年輸入する食糧を生産するための農地は約1200万ha。国内農 地の約500万haに足すと、計1700万haになり、日本人の食生活を支える内外農地 総面積は一人当たり0.134haということになる。

ここ60年にわたり、日本の食生活は大幅に変化し、食糧自給率にも大きな影響 を及ぼしている。

日本の食生活の変化、1936年−1995年 (単位: 一人当たり年間供給食糧kg.)

  1936年 1960年 1970年 1995年
穀物

157.6

149.6

128.3

101.8

135.0

114.9

95.1

67.6

小麦

8.5

25.8

30.8

32.7

2.2

5.2

13.4

31.2

鶏卵

2.3

6.3

14.5

17.5

牛乳及び乳製品

3.3

22.2

50.1

91.0

魚介類

9.6

27.8

31.6

38.1

油脂類

1.0

4.3

8.9

14.5

出所: 農林水産大臣官房調査課、平成8年度食料需給表、p. 64-68, 日本国勢 図会 CD ROM 97/98

農作業を実際に行う農業就業者の高齢化が急ペースで進み、次世代にその技 能と知識が継承されずに失われることが深刻な問題となっている。

農家、農業就業人口、60歳未満の割合

  総人口 農家人口 農業就業人口 基幹的従事者 うち60歳未満 60歳未満%
1960年

93,418,501

34,411,000

14,542,000

11,750,000

10,130,000

86.21

1980年

117,060,396

21,366,000

6,973,000

4,130,000

2,980,000

72.15

1990年

123,661,167

17,296,000

5,653,000

3,130,000

1,620,000

51.76

1995年

125,570,000

12,037,000

4,140,000

2,780,000

1,090,000

39.21

出所: 農林統計協会 農業白書付属統計表(平成9年度) p.43

食糧生産のための、農業生産現場内外でのエネルギー消費は増加する一方だ。 25年前の宇田川武俊氏の研究は米の場合のこの傾向を鮮明に示している。その 傾向は現在も引き続き高くなっているに違いない。

水稲栽培における投入エネルギー(単位: 1000 kcal/ha)
  1950年 1955年 1970年 1974年 1974/1950年
エネルギー投入 (燃料、肥料、機械など)

9,140

13,350

36,960

47,010

5.14

エネルギー投入 (燃料、肥料、機械など)

11,600

14,800

17,300

17,700

1.53

産出/投入

1.27

1.11

0.47

0.38

0.30

太陽エネルギーの利用率 (%)

0.27

0.34

0.40

0.41

1.52

出所: 宇田川武俊、水稲栽培における投入エネルギーの推定、環境情報科学、 5-2, 1976

上記の表によると、太陽エネルギーの利用率(と収穫量)を50%増加させるため に投入されたエネルギーは5倍に達したことになる! この傾向はどの商業作物に おいても同様と推定できるが、農業生産現場外での食糧生産のために消費され るエネルギーの数量化は可能だろうか。1997年の統計によると、日本の最終一 時エネルギー消費における農林水産の割合は3.2%、食品産業における割合は1.5%、 過程消費は5.7%ということになっている[4]。このことから、食糧を生産し、料 理を食卓に載せるために、日本の最終一時エネルギー消費の約6ないし7%が必要 と仮に推測してみてもいいが、これは過小評価だろう。多分10ないし15%が現実 的と思われる。なぜなら、上記の推測はたとえば、レストラン、スーパー、食 糧輸送、厨房道具・機械類(冷蔵庫、オーブン、コンロなど)のような要素を 含まないからだが、正確な統計は必要ないだろう。要は、調理し食べるために 膨大なエネルギーを消費しているということで、そのエネルギーが高くなった り、手に入りにくくなったり、不便になったり、なくなったりすれば私たちは 大変困るということだ。

日本の農業においては、土壌浸食は大きな問題ではないようだが、90年代初頭 からは農地の放棄が年間4ないし5万haというペースで起きている。下記の表に は1997年の統計を示している。(日本の農地総面積は1997年に495万haだった)

田畑拡張・かい廃、1997年(単位:ha)
 

拡張

かい廃

  開墾 干拓・埋立て 復旧 田<->畑 自然災害 人為かい廃 田<->畑

202

18

-

68

86

23100

103

19800

3150

6150

3000

0

6

3150

28000

18

27900

86

[年間放棄 = 51,100 - 6,352 = 44,748 ha], 「田<->畑」とは、田の畑への転換 またはその逆
出所: (財)瑞穂協会、米麦データブック、1998年、p.11

水不足(旱魃、消費過多)も水過剰(洪水、台風)も潜在的な問題だ。もし 地球温暖化の結果が日本における降雨減少、梅雨の不規則化なら、1994年の降 雨不足の年に日本人が思い知らされたように、雨が降らなければダムがあって もどうにもならないのだ。長期的な解決は、日本の水循環システム(山林、田 圃、灌漑施設、河川湖沼、帯水層)が適切にかつ持続可能な仕方に維持管理さ れることだろう。(気候変化は全地球的な問題で、日本も二酸化炭素放出低減 や森林伐採の停止に誠心誠意取り組むべきだということは言うまでもないだろ う)

2.2 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮、DPRK)

状況が本格的に悪化する時に、どのようなことが起こるか。DPRKは人口約235 万人、一人当たりの農地面積0.085haの国で、1998−99年の穀物自給率は73%程 度だった。国際市場で自力で購入できる穀物は消費量の6%程度で、その残りと その他の食糧の多くを海外からの援助に依存している。それによって人々はか ろうじて生き伸びているが、(特に子供の)慢性病がその代償となっている。 何が起きたのだろうか。1995年から1997年にかけての異常気象が農業に打撃を 与えたのは確かだが、それ以前に90年代初頭、旧ソ連、中国それぞれとの特別 貿易関係が崩れたことで経済の凋落に拍車がかかった時期から、問題は深刻に なり始めていた。FAOの(複数の)報告書によると、燃料や部品の不足及び維 持管理の不足から、農業機械類(トラック、トラクター、田植機、コンバイン、 灌漑用ポンプなど)は約20%しか動いていないという。家畜が少ない(そしてえ さを必要とする)ために、DPRKでの農作業の多くは手作業に切り替わっている。 1998年秋、運搬用トラクターやトラックがないため、収穫された米は数週間野 ざらしにされて腐り「収穫後の損害多し」という結果になった[5]。

DPRKにおける1999年の利用可能な化学肥料は199,000トン(窒素換算)で、前 年の約2倍だったが、必要とされる700,000トンのわずか3分の1にも満たない量 だった。DPRK国内にある3ヶ所の化学肥料工場が正常に操業していたなら年間約 400,000トン以上が生産可能だが、通常そのくらいの生産レベルならDPRKの農業 全体は長期的にやっていけるはずだ。しかし、肥料が不足すれば、土壌がやせ て収穫量が落ちるという悪循環を繰り返している。DPRKは、抜けだすのに最低 数年間はかかるシステム的な悲惨な状態に落ちてしまっている。





3. 日本、2000年−2050年:農村天国か、 北朝鮮の二の舞か

安価で豊富な化石資源と食糧輸入の時代の終焉にあたり日本は、基本的な食糧 自給と最低限度のエネルギー投入に基づく、持続可能な経済システムを確立し なければならないだろう。これは実質的に、低レベル投入、高収量、集約的な 有機農業を意味する。しかし、DPRKの例からわかるように、この実施・確立は 即座にはできないのだ。本格的な実施・確立に十数年はかかると考えられる理 由は次の通りだ:

  1. 農地の肥沃度を維持することが最も重要な課題だ。養分を無駄にしない効 率的な循環システムでこれは実現できるが、慣行農法から有機農業へと切り替 えた時に、どの程度の収穫量を維持できるかは現在のところ正確な数量化はで きない。

  2. 利用可能な動力は不足するだろう。農作業の多くは手作業または家畜によ って行われる可能性がある。しかし、家畜は現在非常に少ないし、頭数を増や すのには相当な年月がかかる。

  3. 農村の多くは現在過疎化している。かなりの人口移動はやむをえないだ ろう。ただし、その移動は無秩序なもので必しも農作業の効率化につながると は限らないだろう。また、日本人の多くは農作業の経験や技術や知識の持ち合 わせがないし、毎日肉体労働である農作業を行う習慣も現在はない。ほとんど の日本人が、高い生産性を生み出す農作業ができるようになるまでには長い年 月がかかるだろう。

  4. 自給の重要な要素の一つは食生活の変化だろう。日本人は、伝統的な食生 活、地場産のものや旬のものを食べることを思い出さなければならないだろう。 食糧の大量輸送、コールドチェーンの運営、スーパーやレストランの営業など を行うだけのエネルギーが不足する可能性がある。若者の多くがすぐにはこの 食生活の変化について行けないことも予想される。
日本の農地面積と延べ作付面積のピークは、1950年代後半から60年代初頭にか けて出現した。

日本における農地面積及び延べ作付面積の歴史的ピーク

  農地面積 (ha) 延べ作付面積 (ha) 農地利用率 (%)
1956年

6,012,000

8,270,000

137.56%

1960年

6,071,000

8,129,000

133.90%

1961年

6,086,000

8,071,000

132.62%

出所: 完結昭和国勢総覧(1)、東洋経済新聞社、p.165, 169

21世紀の後半、日本の人口が予想通り6000万人になった場合、その時に延べ 作付面積が上記の1956年程度だったら、一人当たりの栽培面積は0.138haに近い 数値になる。つまり、上記(2.1)に述べた日本人の食生活を支える内外農地総面 積一人当たり0.134haをわずかに上回るのである。もし土地生産性が現在に近い レベルだったら、なかなかの生活水準ではないだろうか。だがそのような状況 にならない場合、日本の人口が江戸時代末期の3000万人にまで減少しない限り 安定しないとも考えられる。それはつまり、低技術の自給農業における日本の 収容限度ということになる。

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  1. Lappé, Frances M. et al, World Hunger: 12 Myths (2nd Edition), Grove Press, 1998, p.8, p.180 Note 1
  2. David Pimentel, et.al. Environmental and Economic Costs of Soil Erosion and Conservation Benefits, Science, Vol. 267, pp. 1117-1123 (24 February 1995), David Pimentel, Will Limits of the Earth's Resources Control Human Numbers? February 25, 1999 (www.dieoff.com/Page174.htm)
  3. Postel, S., When the World's Wells Run Dry, World Watch, Vol. 12, No. 5, Sept/Oct 1999, p.30-38
  4. EDMC '99 Handbook of Energy & Economic Statistics in Japan, The Energy Conservation Center, Japan, p. 18-19
  5. FAO, World Food Programme, Special Report: FAO/WFP Crop and Food Supply, Assessment Mission to the Democratic People's Republic of Korea, 12-Nov-98, 23-Jun-99, 8-Nov-99, for the latest report see:http://www.fao.org/waicent/faoinfo/economic/giews/english/alertes/1999/srkorn99.htm







アントニー F.F. ボーイズ (Tony Boys)

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